環境都市フライブルク(概要)

2020.03.22


カテゴリ: 環境

タグ:

フライブルクの”環境都市”の側面について、ここでは概要をまとめました。
「環境都市フライブルク」各論のページはこちら

“環境都市”になった経緯

昔から郷土の環境を大切に考える傾向のあったドイツ人ですが、フライブルクで特に環境への取り組みが先行して行われてきたのは、大きく二つの理由が考えられます。

一つは、”黒い森”シュヴァルツヴァルトの自然が危機に瀕したこと。
高度経済成長を経た1980年代、工場の排ガス由来の酸性雨によると思われる、木々の立ち枯れが目立ち始めました。現在では針葉樹が黒々と繁る山容を取り戻していますが、フライブルクの市民が環境保護の思想を強く持つきっかけの一つとなりました。

もう一つは、反原発運動。
1970年代にフライブルクから20kmほど離れた、ライン川沿いのヴィール村(Wyhl am Kaiserstuhl)への原発建設計画が持ち上がると、近隣のカイザーストゥール山周辺に広がるワイン産地で反対運動が起こりました。この地方の拠点都市であり、学生の町でもあったフライブルクが、この反原発運動の中心地となっていきます。

ただ反対するだけではなく、原発なしでやっていくためにはどうすればいいか、という代替案を用意することが必要だと市民は考えていました。そして、”大量のエネルギーを必要としない都市や生活”を目指す思想が根付くことになります。

この流れの上に、各種環境施策を行政が実施し、市民もそれを支持しながら、市民自らも積極的に活動を実施していく、今のフライブルクがあります。


普通に住んでいるだけで、環境に配慮できる都市

「住む」ということは、建物の中で資源やエネルギーを消費したり、廃棄物を出したりすることでもあります。また、どこかに出かけるために移動するのに交通機関を使えば、そこでもエネルギーを使い、環境への負荷も発生します。

私が実際にフライブルク市内に住んで感じたのは、特に意識しなくても、普通に生活しているだけで、環境に配慮した行動をとるようにできているということです。

交通

フライブルクではトラム(LRTとも呼ばれる、近代化された路面電車)が張り巡らされていて、市内の大半の場所にこれで行くことができます。トラムやバスなどの公共交通機関は、自家用車のように一人あたり大量のエネルギーを消費しません。
そして、このトラムの動力は、100%再生可能エネルギーまかなわれています。

市民や来訪者が公共交通機関を多く使うための施策も用意されています。今ではドイツや他国の他都市でも導入されているものが多いですが、フライブルクは比較的早くから導入していました。

  • Regiokarte/レギオカルテ・・・1ヶ月単位で、フライブルクと近郊の鉄道、トラム、バスが乗り放題になる定期券。元が取りやすい価格設定のうえ、休日のみ家族や友人が無料で乗れるというサービスもあります。環境定期券という名前で紹介されている場合もあります。
  • パークライドアンドの推進・・・トラムの終点には自家用車の駐車場が用意されていて、一方で市の中心部には駐車場が少ないので、郊外から来た人がトラムへ乗り換えて市の中心部に向かうように誘導されています。
  • 歩行者ゾーン(トランジットモール)の設定・・・市の中心部の半径数100mは、原則として歩行者とトラムだけが進入できるゾーンになっています。

ごみ

ドイツ人はごみの分別をきちっとやるイメージが強いかと思いますが、実際はかなりシンプル。各住戸の前に置かれた、色分けされた回収コンテナに入れるだけです。回収日の前日でなくても使うことができます。
日本に比べると、システム化されていて、頭で考えなくてよいので負担にならない印象でした。

以下はフライブルク市内の例ですが、他都市も概ね同様だと思われます。

  • Bioごみ(Biomüll)・・・生ごみなど「土に還る」もの(古紙を除く) <茶色のコンテナ>
  • 紙(papier)・・・紙ごみ(古紙としてリサイクルできるもの) <緑のコンテナ>
  • 容器・包装・・・緑のマーク(Grüne punkt)の付いたもの <配布される黄色い袋>
  • その他(Restmüll)・・・分別できないもの。コンテナの大きさは自己申告 <黒いコンテナ>
  • ペットボトルやびん、缶など・・・スーパーに回収機があり、デポジット金と引き換えられる

Bioごみは市内の処理場に集められ、有機肥料の原料になります。

その他のごみ(Restmüll)だけは回収が有料で、コンテナの大きさに応じて料金が課されます。つまり、真面目に分別すればするほど、その他のごみは少なくなるので小さなコンテナで済みます。

実際に住んでみての実感ですが、少し気をつけて分別してみると、Bioにも紙にも包装にも当たらないごみというのはほとんど残らないことがわかりました。

住居

ドイツはもともと冬が寒いこともあって、外壁の断熱性能の基準は高く設定されています。フライブルク市は国の基準よりも厳しい基準を、独自に条例で義務付けてきました。
日本と違って、ドイツでは中古の住宅でも価値が大して下がらないこともあって、新築の住宅の供給はかなり限定です。それもあって、既存の建物の断熱改修が盛んに行われています。

また、戸建ての住宅というものもフライブルクでは滅多になく、テラスハウスのような小規模の集合住宅が主流です。

住宅で消費されるエネルギーの中で、電力の割合が日本ほど多くないのもドイツの特徴と言えるでしょう。夏はそこまで暑くないのでクーラーが付いている住居は皆無で、その代わり冬の暖房に使うエネルギーが大きな割合を占めるためです。
個別の暖房は少なく、地下にコージェネレーション(熱と電気を同時に作り出し、無駄な廃熱を省く)のボイラーが置かれていたり、地域冷暖房(街路の地下に熱水を通す配管があり、大型のボイラー施設で作られた熱を各戸に配る)になっている場合もあります。

電力については、電力の自由化もすでに実施されているので、太陽光や風力などの再生可能エネルギー由来の電力を選択する市民も多いようです。

エネルギーの供給源や供給システムを、まず環境負荷の少ない形態にしておくことで、実際にエネルギーを使う時には特に意識しないが、環境に負荷をあまりかけずに済んでいる。地球環境に特に興味のない市民でも、自動的に環境負荷の少ない生活を営むことになる。
フライブルクは街全体が、すでにそういう状態になっていると思います。


環境に配慮した都市開発

近年のフライブルク市内の都市計画の事例を見ると、市の環境政策のコンセプトが端的に表れています。

ヴォーバン(Vauban)地区

ここは第二次大戦以来、フランス軍の基地(駐屯地)だった地区です。ヴォーバンというのもフランスの歴史上の人物から取られています。冷戦の終結に伴いドイツに返還されました。その後市有地となり、新街区として開発されることになりました。

開発に際して「フォーラム・ヴォーバン(Forum Vauban e.V.)」という市民団体がイニシアチブをとり、”市民主導で”エコロジカルな町を目指す計画が立てられ、実行されてきたことが特徴です。

ざっと列挙するだけでも、ヴォーバンの都市計画には以下のような施策が盛り込まれ、実現しています。

  • カーフリー地区(住戸への車庫の設置義務を免除され、自家用車は地区内2ヶ所の共同駐車場に停める。つまり街区内にほとんど自動車が入って来ない)
  • 公共交通(トラム)、自転車が便利になる街路構成
  • バウ・ゲマインシャフト方式のコーポラティブ住宅(計画時点から入居予定者が積極的に関与する方式)の活用
  • 地域暖房の導入
  • 自然風の通り道として計画された公園

ヴァインガルテン(Weingarten)地区

ドイツ人は一般的に高層住宅を敬遠します。ヴァインガルテン地区には十数階建の集合住宅が何棟も建っていますが、ほとんど低所得者や外国人しか住んでおらず、治安の悪い地区という印象が付いてしまっていました。

そこで、地区内のブギ50(Bugginger通り50番地)という建物を選び、大規模な改修によって建物自体、また街区全体のイメージを改善するプロジェクトが実施されました。

改修の内容としては、省エネ改修によって断熱性能を高める、バルコニー増設などによって使いにくい間取りを改善する、住民同士の交流の場を用意する、などです。

周囲の高層住宅も同様に改修が進められており、また地区全体の熱供給を受け持つコージェネレーション施設も稼働しています。


市民活動を支える施設

フライブルクが環境都市と呼ばれるのは、行政の上からの施策だけでなく、むしろ市民の活動によって、ボトムアップで環境に配慮した都市を実現してきたからでもあります。

そういった市民の活動の拠点となっている施設をいくつか紹介します。

エコステーション(Ökostation)

湖を囲む公園の中にある施設で、ドイツ最大の環境保護NPOであるBUNDが、市の委託で運営しています。幼稚園や小学校の環境学習向けや、市民向けなど、様々なプログラムの拠点として使われています。

ヴァルトハウス(Waldhaus)

名称は「森の家」という意味です。市の郊外、森に面した場所にあり、森林生態系や林業について学ぶことができる施設です。森林に関する常設展示や、カフェ、木工体験のできる作業スペースもあります。


以上の情報はほんの一部にすぎません。ここで挙げた例も挙げられなかった例も、別記事で詳しく取り上げる予定です。

この記事をシェア
コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。